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Dr.Hipsが語る〜痔を知り、楽に治す方法〜

おしりの医学#084「これって慢性裂肛?いつもおしりが痛い!!」

今回はYoutubeチャンネル「おしりの医学」の視聴者様からの質問にお答えします。質問内容は「以前から排便の際に肛門が痛むことがありましたが、最近は激痛に変わり、排便の度に治が出るようになりました。現在海外の田舎在住で、信頼できる医療機関がない状況なのですが、これは慢性裂肛なのでしょうか?対処法などを教えていただきたいです」というものでした。そこで今回は質問者様の質問に答えつつ、慢性裂肛の危険性や対処方法についてお話ししていきます。

痔に関する海外の医療事情

今回の質問者様は海外の田舎在住ということで、医療機関が信用できないということでしたが、確かに国によって痔の治療に関する医療レベルには違いがあります。以前、当院に来院した患者様の中に、某国で痔瘻の治療を受けたという方がいらっしゃいました。
治療方法の詳細を聞いたところ、痔瘻でできた穴の入口と出口にワイヤーを通し、熱で焼き切るというものでした。術法としてはシートン法に近いものがあります。
シートン法は痔瘻でできた穴に糸を通し縛り上げることで、徐々に患部を切除する治療法です。シートン法では患部を少しずつ切除するため、切除された部分が再生する時間を作ることができます。結果、メスを入れるよりも肛門括約筋を保護しやすいです。
しかし、痔瘻でできた穴をワイヤーで一気に焼き切るという方法は、患部が再生する猶予がないため、肛門括約筋に大きなダメージを与えることになってしまいます。加えて、患部を完全に取り除く方法でもないため、再発のリスクも高いです。
事実、当該の患者様は肛門括約筋が痛んでおり、さらに再発までしていたため、当院で再度手術を行うことになりました。以上のことからも分かるように、痔の治療における医療レベルは国や医師によって異なるので、信頼できる医師のもとで治療を受けることが重要になります。

慢性裂肛は危険な状態

質問者様を実際に診察したわけではないので推測になりますが、症状を聞く限りは慢性裂肛である可能性が高いといえます。慢性裂肛とは裂肛が長期間続くことで起こる症状です。通常の裂肛が治らないうちに硬い便が通り、再度傷口が開く状況が繰り返されると、傷口が硬くなり、より深い傷ができてしまいます。基本的に肛門から1~2cmほど奥にできることが多いため、一見すると症状がないように見えるのが特徴です。
慢性裂肛は急性裂肛よりも深い傷になりやすく、重症化によって筋肉にまで達してしまうことが多いです。筋肉にまで達すると傷が潰瘍化してしまうため、治癒するまでに時間がかかってしまいます。また、肛門ポリープや肛門狭窄の原因にもなるため、症状がある場合は早期の治療が重要です。
慢性裂肛で特に危険なのは、排便時に傷口が痛むという恐怖心から、奇異性収縮という症状が起こってしまう可能性があることです。奇異性収縮とは、痛みへの恐怖心から肛門の筋肉が無意識に収縮してしまうことを指します。
奇異性収縮が起こると、排便しているのに肛門がしまっている状態になるため、より裂肛が起きやすくなり、裂肛がさらに重症化しやすくなります。さらに、奇異性収縮が習慣化すると肛門がほとんど開かなくなり、最悪手術が必要になる場合があるので、慢性裂肛の症状がある場合は早急に治療を行うことが重要です。

慢性裂肛の治療方法

慢性裂肛は重症でなければ保存療法で治療することが可能です。質問者様は海外在住とのことでしたので、日本に帰るタイミングがあれば専門の病院で座薬や軟膏などを処方してもらい、使用しながら治療するのが良いでしょう。
薬の入手が難しいようであれば、生活習慣を見直すことでも改善が可能です。特に裂肛は便が正常であることが重要になるので、食物繊維を多く摂取し、軽い運動や規則正しい生活を行うことで、快方に向かう可能性が高いです。生活習慣の改善を行いつつ、可能であれば信頼できる医療機関で受診することをおすすめします。

平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。

平田悠悟プロフィール(平田肛門科医院 副院長)

1982年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。東京大学大腸肛門外科入局後、東京山手メディカルセンター大腸肛門病センターに出向し、
大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
2020年 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻医学博士課程修了。
現在は平田肛門科医院の副院長。