患者さんが恥ずかしくないように
これまでの痔の治療に対して、患者さまには「痛い」、「恥ずかしい」という先入観がありました。当院では、これら過去の医療の欠点を改善し、患者さまの立場に立った治療を行うことを目標としています。
日本には「肛門科を受診することは恥ずかしいこと」という意識があるため、当院はできるだけ目立たない場所に、玄関も道路から直接見えないように配慮しています。
玄関の自動ドアから中に入り、スリッパにはきかえてドアを開けると、受付と待合室があります。
外来の受付では、診察の前に「予診表」をお渡しし、患者さまに待合室で記入していただきます。これにより、あらかじめ痛みの部位、出血の程度、不快感の種類などを医院側が具体的に把握して、来院した理由を知っておくようにしています。
予診表への記入は、患者さまにとっても、自覚症状を医師に聞かれたときどう答えればいいのか、自分なりにまとめておく心の準備にもなるため、とても便利だという声もあります。
受診の順番がくると、患者さまは自分の名前ではなく、受付番号で呼ばれます。自分の名前で呼ばれると、まわりの人の目が気になって恥ずかしいと感じる人もいらっしゃることへの配慮です。

診察室で
問診
診察ではパンツを脱がずにすむ
診察の姿勢はシムス体位
触診・指診
肛門の診察は、医師がゴム手袋をした指にゼリーやワセリンを塗って、肛門周囲を調べる触診をし、その後肛門内に指を挿入して内部を診察する指診を行います。肛門や直腸の粘膜に直接触れて診察することで、痔やその他の病気を調べたり、発見することができます。
指診は患者さまによっては不快感を感じたり、痛みを感じることがありますが、肛門の病気の診断には欠かせない診察ですので、口で大きくゆっくり呼吸をしながら診察を受けてください。
指診によって、肛門や直腸にある、肛門狭窄、痔核、痔瘻の瘻管の深さや位置、裂肛の状態、直腸ポリープなどが診断できます。
双指診
肛門周囲膿瘍や痔瘻の診断をするとき、2つの指を用いた双指診を行います。右の親指と人さし指で行う方法と、両側の人さし指で行う方法があります。
診察器具は完全滅菌
肛門の診察に用いるゴム手袋は、その患者さまのみに使用し、1回で捨てます。肛門鏡などの診察器具も、1日に診察する患者さんの人数分を、完全に滅菌して用意してあります。
このように、一人一人の患者さま専用のゴム手袋や診察器具を使うことにより、B型肝炎やエイズ(後天性免疫不全症候群)などの感染を完全に防ぐことができています。
診察の経過
ひととおり診察が終わると、患者さまに再び椅子に座っていただき、病名と症状、手術が必要かどうかなどの今後の治療方針をできるだけわかりやすく説明します。
例えば内痔核の患者さまであれば、
「診察の結果、あなたの痔は内痔核でした。その内痔核が急性の炎症を起こしているために、現在の痛みと出血があります。この痛みと出血などの症状は、消炎薬の投与と生活指導で、約4週間でよくなります。
治療によってそれらの症状がおさまっても、内痔核はもともと動静脈瘤という血管の病気なので、薬だけでは消滅しません。しかし、炎症がおさまって腫れがひけば、内痔核の手術は必要ありません。
毎日の食事と生活の指導を受けて、あなたと内痔核がなかよく共存できる道を考えましょう。」
という内容になります。
治療を開始してから4週間目、ちょうど腫れがひいたころで内痔核の大きさをはかり直し、このときに患者さまの現在の自覚症状を、最初の自覚症状と比べて話していただきます。
この問診で日常生活に支障をきたすほどの症状が認められない場合には、「生活指導によって内痔核と共存する」という治療方針がスタートします。
痔の治療における生活指導の内容は、
①患者さんの職業からくるストレスの程度
②睡眠のとり方
③食べ物の内容
④便秘の有無
⑤排便の状態
⑥日常生活における運動の程度
など、細かいものになります。
また、治療に使う薬の働きや成分などについても、患者さまのケースごとに詳しく説明します。
原則として初診より3ヵ月間は外来で経過を観察し、慎重に手術の必要性を検討していきます。
その後は、手術を必要としない場合でも、生活指導により症状がどの程度改善されたかを定期的にチェックするために、数ヵ月に1回は外来に来ていただき、その後の痔の様子や困っていることを丁寧に聞くことになります。
このように、当院では、治療後の経過をきめこまかくフォローすることにより、患者さまに「常に医師とコンタクトがとれていて、いざというときに何でも相談できる」という安心感を持っていただけるよう心がけています。患者さまからの信頼を得ることにより、担当医師も患者さまの症状の変化を常に把握し、的確な生活指導が可能になります。
肛門鏡検査と大腸内視鏡検査
指診の後には、肛門鏡と大腸内視鏡という検査器具を用いて肛門や直腸の症状を観察します。
肛門鏡検査
肛門鏡には、二枚貝のようになったストランゲ型肛門鏡と、筒型になったケリー型肛門鏡があります。
二枚貝タイプの肛門鏡は、肛門に挿入して開き、肛門内の内痔核や裂肛の位置、痔瘻の開口部などを診察するときに用います。一方、筒型の肛門鏡は直腸下部の症状を観察するときに用います。
肛門鏡検査を受けるときも、姿勢はシムス体位をとり、軽く口を開け、体と肛門の力を抜くようにすれば、楽になります。けっして痛い検査ではありません。
なお、当院では、赤ちゃんや肛門の狭い人のために、特別に小さい肛門鏡も用意しています。
大腸内視鏡検査
その他の検査
エコー(超音波)検査
超音波を体内に向けて発信し、その反射波の変化を画面に映し出して観察することで、臓器や体内の病状を検査する方法です。肛門の検査では、肛門括約筋の断裂、肛門がん、肛門の奥にある痔瘻を調べるときにエコー検査を行います。
直腸肛門内圧検査
カテーテルという管を肛門に挿入して、肛門の静止時、収縮時の内圧を測定する検査です。これにより、肛門括約筋の機能を検査することができます。便失禁の患者さまの場合は、肛門括約筋の働きが低下していることでわかります。
ディフェコグラフィー(排便造影検査)
便失禁の検査で、小麦粉などをペースト状にしたものを便のかわりに直腸に注入して排便させ、その過程をX線ビデオカメラで記録して観察することで、便失禁の原因を調べる検査です。
入院はできるだけ短く
当院では、できるだけ手術をせずに、的確な処置と生活指導によって治すか、治らない場合でも痔と共存することを治療の基本方針としています。
それでも不幸にして、内痔核が大きくなって手術を必要とするようになった場合でも、入院期間はできるだけ短く、というのがモットーです。その場合は、患者さまは担当医から入院に必要な日数と手術の方法の詳しい説明を受け、そのうえで患者さま自身が手術を受けるかどうか決めるようにしています。
入院して手術を受けることになった場合、患者さまに自分の都合のよい入院日を予約していただきます。医院側が入院日を指定することはありません。
病室はすべて個室で、患者さまのプライバシーは守られています。
各病室についている便器は、温水洗浄式便座となっており、排便後は温水が吹き出て肛門を清潔に洗い流し、温風がお尻にあたって乾かしてくれます。当院では、トイレの数が病室の数よりも多いので、患者さまは便意を感じたら自室に戻らなくてても、近くのトイレで用をたすこともできます。
また、外来の患者さま用にも、いつでも気がねなく使えるトイレが用意されています。
病室には、専用のお風呂とシャワーが備えつけられ、当院の場合、ほとんどの患者さまが手術後の2日目には、ゆったりと湯船で入浴ができます。
痔の手術後は、1日に2~3回、できるだけまめに入浴することを指導しています。お風呂に入る回数が多ければ多いほど、痔の傷の治りも早くなって、痛みも楽になります。
全病室にはビデオ、有線放送、ケーブルテレビが用意され、映画やスポーツ、音楽を自由に楽しむことができます。また、小さいながら院内図書館があり、本が自由に借りられるようになっています。
入院中の食事は、病院食のスタッフの手づくりで、家庭の味を大切にしています。とろろ麦飯やおからのハンバーグなど、植物繊維がたっぷり入ったメニューが中心で、入院中からすでに退院後の指導が始まっています。
患者さまが自分の家で休日をくつろぐのと同じ感覚で入院生活を過ごしていただけるように配慮しております。