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おしりの医学#068「よりよい腸活〜大腸内視鏡で直接大腸にビフィズス菌、酪酸菌を撒いてみると・・・」
腸内環境の改善に役立つとして有名なビフィズス菌ですが、実際にはどの程度の効果があるのでしょうか?今回はビフィズス菌や酪酸酸性菌が腸に及ぼす効果を確認するために、ある実験を行いました。ぜひ菌が腸に及ぼす効果を知るための参考にしてみてください。
ビフィズス菌は胃酸や酸素に弱い
腸内環境を整える効果があることで知られるビフィズス菌ですが、実は耐性が低く、食品や飲料から摂取しようとしても胃酸でほとんど死滅してしまうことが知られています。実際、ビフィズス菌は乳酸菌よりも胃酸に弱く、大腸まで届かせるのは難しいです。さらに、ビフィズス菌は酸素にも弱く、空気に触れると徐々に死滅していってしまいます。
今回はそんなビフィズス菌と、同じく腸内環境の改善に役立つとされ、近年注目されている酪酸産生菌を盲腸に直接撒き、腸内細菌叢がどのように変化するかを調べてみました。
実験の測定方法
測定の手順は以下の通りです。
- 事前に腸内細菌キットで実験前の腸内細菌叢を測定
- 大腸内視鏡時にビフィズス菌と酪酸産生菌を水に溶かし、盲腸に撒く
- 1週間後に腸内細菌キットで再度腸内細菌叢を測定
実験には以下の菌を使用しました。
- ビフィズス菌:ラックビー20包
- 酪農産生菌:ミヤBM20包
測定結果
測定結果は以下の通りです。
今回実験に協力していただいた患者の場合、実験前のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属)が1.37%だったのが、実験後に0.83%とやや減少していることが分かります。対して、酪酸産生菌(フィーカバクテリウム属)については実験前に12.1%だったものが16.3%まで増加していました。
また、多様性というカテゴリーにおいては、レベル2からレベル3へと改善しました。加えて、腸や口腔に疾患を引き起こすとされている大腸菌やピロリ菌、カンピロバクター菌などが含まれるプロテオバクテリア門については2.96%から1.78%に減少しており、結果的に腸内環境が改善されたことが分かりました。
実験の副作用などについて
今回の実験では人体に悪影響を及ぼすような事象は見られませんでしたが、菌を撒いた当日の夜に、便が頻発する事象が見られました。しかし、これについては菌の影響だけでなく、菌を溶かす溶液を生理食塩水ではなく水にしてしまったことが原因であるとも考えられ、菌の散布による影響であるとは断定できません。
今回の症例は1例のみなので、データとして扱うことは難しいですが、今後対象症例を増やし、より菌が定着しやすい投与方法を試行していくことで、より効果的な実験結果が得られると考えています。
平田悠悟プロフィール(平田肛門科医院 副院長)
1982年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。東京大学大腸肛門外科入局後、東京山手メディカルセンター大腸肛門病センターに出向し、
大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
2020年 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻医学博士課程修了。
現在は平田肛門科医院の副院長。