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Dr.Hipsが語る〜痔を知り、楽に治す方法〜

おしりの医学#067「妊娠中の坐薬について」

座薬は痔の治療方法として有効な手段ですが、妊婦の場合は薬剤が胎児に与える影響を考える必要があります。結論から言えば、現状妊婦にとって確実に安全といえる薬剤は存在していません。今回は妊娠時における座薬の考え方についてお話ししていきます。

座薬の種類は2種類

痔の治療に使われる座薬には大きく分けて以下の2種類が存在します。

  • ステロイド系座薬
  • 非ステロイド系座薬

ステロイド系座薬は名前の通り、ステロイドが含有されている座薬です。対して、非ステロイド系座薬にはステロイドが含まれていません。それぞれ詳しく見ていきましょう。

ステロイド系座薬

ステロイド系座薬には強力ポステリザン軟膏の他、市販薬としておなじみのボラギノールも該当します。ステロイドについては胎児へ悪影響を及ぼすという説があります。2000年に実施された前向きコホート研究によると、胎児に大奇形などの影響が出るリスクの増加はなかったものの、口唇口蓋裂については3.4倍に増加したとされました。
しかし、2014年の多施設共同Population-Base症例対象研究によれば、口唇口蓋裂についてもリスクは増加しなかったと報告されています。以上のように、ステロイドが胎児に与える影響については決定的なことを言うことができません。
胎生12週を過ぎていれば口蓋が完成しているため、ステロイドの影響が出にくいかもしれませんが、FDA(アメリカ食品医薬品局)の薬剤胎児危険度分類では、人体に有害とされるカテゴリーDに分類されていることもあり、当院としてはおすすめしておりません。

非ステロイド系座薬

非ステロイド系座薬として代表的なのは、ボラザGやヘルミチン座剤などです。どちらの座薬にも歯科治療の局所麻酔などで使われるリドカインという物質が含まれています。リドカインは胎盤通過性が良く、大量投与すると流産する可能性があると指摘されていますが、歯科治療に使用する程度であれば問題ないとされています。
FDAの薬剤胎児危険度分類では人体への危険性の証拠がないカテゴリーBに分類されており、座薬に含有されている量であれば胎児への影響もないとされています。
ただし、ボラザGにはトリベネシドという成分が含まれています。2011年にハンガリーで6万人に対して実施された研究によると、胎児の大奇形などのリスクは増加しなかったものの、妊娠2~3ヶ月に摂取すると、胎児の水頭症リスクが高まると報告されています。
また、ヘルミチン坐剤に含まれるアミノ安息香酸エチルは、1988年に行われた研究では妊婦への悪影響はないとされたものの、FDAの薬剤胎児危険度分類ではカテゴリーCに分類されており、人体への影響は否定できないとされています。
加えて、ヘルミチン坐剤に含まれている次没食子酸ビスマスは、正確なデータはないものの、子宮内発育制限やサリチル酸中毒により、周酸期死亡率を高めるといわれており、FDAの薬剤胎児危険度分類ではカテゴリーCに分類されています。

妊婦にとって確実に安全な薬剤はない

上記からも分かるように、妊婦にとって確実に安全な座薬というものは存在しないというのが当院の見解です。妊婦が痔の治療に薬剤を使うべきかどうかは、FDAの薬剤胎児危険度分類においてカテゴリーCに分類される物質をどう捉えるかによります。
当院では、カテゴリーCに分類される物質が人体に影響を及ぼす可能性を鑑み、基本的に妊婦への座薬の処方はしていません。しかし、症状の悪化により、どうしても薬の処方が必要な場合は、妊娠3ヶ月を経過している妊婦に限り、ボラザGを処方することがあります。
とはいえ、ボラザGも確実に安全であるわけではありません。よって、処方する場合は患者に危険性を説明し、リスクを把握していただいた上で処方しています。

今後の薬剤開発に期待

現状妊婦に対して確実に安全な座薬は存在しません。今後、薬剤開発が進み、妊婦でも安全に使える原料のみで構成された座薬が開発されることを願っています。当院は薬剤開発に積極的に携わってきました。今後も安全な座薬が開発されるよう、積極的に研究開発に携わっていきたいと考えております。

平田悠悟プロフィール(平田肛門科医院 副院長)
1982年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。東京大学大腸肛門外科入局後、東京山手メディカルセンター大腸肛門病センターに出向し、
大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
2020年 東京大学大学院医学系研究科外科学専攻医学博士課程修了。
現在は平田肛門科医院の副院長。