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おしりの医学#009「肛門狭窄(こうもんきょうさく)の原因と正しい治療 」

肛門狭窄(こうもんきょうさく)の原因

肛門狭窄というのは、簡単にいうと肛門が狭くなるという症状で、硬いお通じだと痛くなっ たり、便が細くなってしまう状態です。なぜ狭くなるかというと、例えば腕の皮膚を切ってしまったとき、これが治るにつれてひきつれて周囲の皮膚が引っ張られる状態を想像してください。肛門も同じで、一度切れ痔になってしまうと、これが治る際に全体的に粘膜が引っ張られてしまい、最初に切れたときよりも若干肛門が狭くなってしまいます。そして悪いことに肛門が狭いとまた切れやすくなり、これが治る際にまた狭くなる・・・。これの繰り返しにより、肛門狭窄が起こります。

粘膜は2か月で生え変わる

「手術しましょう」と他の病院で言われ、本当に手術せねばならないのかと疑問を抱き、当院に相談したいという方が全国からいらっしゃいます。当院の肛門狭窄に対する手術率は、 わずか 18.2%です。つまり、8割以上の場合で手術は不要です。なぜかというと、肛門は2カ月に一回、その粘膜が生えかわりますので、炎症をしっかりコントロールできれば、肛門 は自然に広がっていくからです。これは肛門に限らず、目や喉の粘膜も2カ月ですべて生え 変わりますが、生え変わる際に柔らかい粘膜ができれば、狭くなることはありません。 当院では肛門狭窄の場合、少なくとも3か月は自然に広がっていくかどうかの経過観察を行います。以前当院に来られた女性が、痔の手術のあと肛門狭窄になり、ボールペン1本分の太さすらない状態になってしまい、これを苦に自殺未遂を図るほど悩まれていました。診 察してみると、手術しようにも移植できる皮膚もなく、その女性とじっくり話し合い、2年間当院に通っていただきました。その結果、親指くらいの太さまで肛門の幅が回復され、その3年後には「結婚して出産できました、ありがとうございました」というハガキが届きました。このように、人間にはもともと自然治癒力が備わっていますから、すぐに手術という選択や、諦めるということは必要なくて、2か月で生え変わる粘膜を柔らかくしてやる、という治療 が非常に効果的だと考えています。

仮に手術となっても、括約筋を傷つけない術法がある

とはいえ、それでも2割弱は手術の必要な状態もありますから、切れ痔がひどく炎症がおさまらない場合、どんどん狭くなってしまいますから、これは早めの手術が必須です。この手術では皮膚移植により肛門を広げるのですが、実際に広げられるのは全体の2割程度です。
学生の頃に習ったかもしれませんが、パスカルの定理の通り、水道管の内径を1割広げると、周囲の圧は1/3になります。
健康なときの肛門の幅を100としたときに、50まで狭まってしまった肛門狭窄の患者さんが、そのまま放置してさらに40まで狭くなってしまった場合、その段階で手術しても40が50に戻るだけですから、手術の効果としては非常に低くなります。ですので、明らかに症状が進んでいる患者さんの場合は、手術を早めに行うことが肝要となります。
この手術、他の病院では1泊か2泊で済むということで、括約筋を切ってしまう手法が行われるケースがあり、括約筋を切ることで肛門狭窄が一時的に楽にはなるのですが、30年後の将来、便が漏れる可能性が非常に高くなります。30年後にどうなるかを予測しながら括約筋を切ることは不可能ですから、当院では括約筋を切ることなく、周囲の皮膚をスライドさせる手法(スライディング・スキン・グラフト法)を採用しています。この方法であれば、10日前後の入院は必要となってしまいますが、括約筋を傷つけませんので、将来便が漏れるという心配はありません。
肛門狭窄に対してはまず3か月程度、生活習慣指導を受けながら様子を見て、それでも手術が必要な場合は可能な限り括約筋を傷つけない方法で手術を受けられるのがベストですので、そうした治療が可能な病院をお選びいただければと思います。

平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。