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Dr.Hipsが語る〜痔を知り、楽に治す方法〜

おしりの医学#008「痔ろう(痔瘻・あな痔)の原因と適切な治療」

古代のなごり、肛門腺

痔ろうについて説明する前に、肛門の構造について簡単に説明しておきましょう。
口の中には、唾液を出す小さな穴、「唾液腺」がありますが、実は肛門にもまったく同じものが存在します。
これは「肛門腺」と呼ばれ、これには諸説あり、太古の時代にこの肛門腺から匂いを出して異性を誘ったのではないか、という説が有力です。
犬や猫がお尻のにおいをかぐ行動をしますが、同じことを太古の人類もやっていたのではないか、と言われています。

痔ろうは、肛門腺の炎症から始まる

現代ではその機能は廃れましたが、肛門腺とその出口である肛門腺口は残っており、下痢便や水様便がこの肛門腺口から入ってしまうと、便が詰まってしまい、
炎症を起こしたり化膿する場合があります。そして膿がたまり、肛門腺口側ではなく皮膚のほうへ破れ出てしまうと、1本のトンネル状の管ができてしまうのです。
肛門とは別に、肛門の脇に管が形成され、症状が進んでひどくなると、この管から便も出てしまう状態になります。これを、痔ろうと呼びます。
この痔ろう、もちろん痛みがあり便が出てしまうので怖い病気ですが、何より怖いのは放置するとガン化する可能性があるということです(痔ろうガン)。

若い筋肉質の男性に多い痔ろう

痔ろうは、一番多いのが男性で、筋肉質でガッチリタイプの20~40代の男性に特に顕著にみられます。これはなぜかというと、この筋骨隆々な若い男性は、
大酒を飲んで下痢になり、その下痢を強くいきんで排出することを繰り返してしまい、前述の肛門腺へ下痢便を逆流させ、結果的に痔ろうになってしまうケースが多いからです。
特にこの世代の男性は、仕事の上でもかなり無理をしている状態で、朝まで酒を飲むという場面もあり、力があるので排便時に強くいきんでしまう、という背景があります。

痔ろうを治療するには

痔ろうの治療は、入院して手術する以外ありません。なぜかというと、放置するとガンになってしまうからです。ただし、「本当に痔ろうなのか」を見極めることが
大変に重要です。もし少しでも疑わしい場合は、3か月くらい様子を見ることもあります。単なる皮膚の炎症や、良性の腫瘍だったという場合もあります。手術をしないに越したことはないので、当院では慎重に診断を行います。
そして、間違いなく痔ろうであると診断できた場合は、手術を行いますが、当院では括約筋を傷つけない手法を採用しています。
一般的には、痔ろうの手術の場合、肛門の括約筋にメスを入れることになることがほとんどです。そして、括約筋を切ると、何年か後にどうしても便が漏れたりする状態になってしまう場合があります。
他院の患者さんのケースですが、あるスポーツ選手が、痔ろうの手術で括約筋を切られてしまい、数年後に便が漏れるようになってしまい、試合に出られなくなってしまったことがありました。
括約筋は一度切断してしまうと元に戻すことができないため、この方は選手生命を絶たれてしまいました。
当院にも相談にこられましたが、打つ手なしでした。つまり、痔ろうの手術に於いては、括約筋をいかに傷つけずに手術するかが最も重要です。

括約筋を傷つけない手術

では、当院ではどのようにして括約筋を傷つけずに手術を行うかというと、括約筋内を貫いている肛門腺をそのまま残し、内側と外側の炎症部分を除去するという手法をとります。
こうすれば括約筋にメスを入れることなく、痔ろうの原因となる両端のみを切除し、括約筋内の管が自然に消えるのを待つことで治療が可能となります。
もちろん再発の可能性はゼロにはならず、世界的には5~6%だといわれていますが、当院で行った手術では、まだ一件もこのような再発は発生していません。
残念ながら、一度切ってしまった括約筋が元に戻ることは絶対にありませんので、当院では括約筋を傷つけない手法を採用し、将来のQOLを確保することを最優先としています。
この辺りは、診察された病院のスキルやレベルにもよりますので、5年後10年後の肛門の機能がどうなるかを見極められる、しっかりとした技術を持った病院へかかることが何よりも重要です。

平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。