Dr.Hipsが語る〜痔を知り、楽に治す方法〜
おしりの医学#052「手術をする前のチェックポイント②〜痔瘻(あな痔)」
痔の中でも重症化しやすい痔瘻は、基本的に手術が必要な病気です。しかし、とある事情から手術を受ける病院を選ぶ際には慎重になる必要があります。今回は痔瘻で手術を受ける際にチェックしておきたいことに付いてお話しします。
痔瘻(あな痔)とは
痔瘻とは、直腸から肛門付近の皮膚にわたって穴が開いてしまう病気のことです。肛門の内部には皮膚と粘膜の境目である歯状線という部位があります。痔瘻は歯状線にある小さなくぼみに便が入り込み、雑菌の影響で化膿することで発症する病気です。
歯状線のくぼみから徐々に炎症によって穴が開いていくのですが、穴の開き方によって4種類に分類されます。治療しても再発する可能性があるため、しっかりと治療しないと長い付き合いになる可能性が高いです。詳しくは『おしりの医学#036「痔瘻(痔ろう)の種類について」』で解説しているので、ぜひご覧ください。
痔瘻(あな痔)の場合は100%手術が必要
痔瘻は他の症状と違い、発症したら100%手術が必要になります。ただし、早計に痔瘻と判断し、手術してしまうのはリスクが大きいので注意しなければなりません。当院に来院する患者さんの中にも、別の病院で痔瘻と診断され、手術を希望する方がいます。
しかし、しっかりと診察してみると痔瘻ではないということも多いのです。痔瘻は他の痔の症状と見分けがつかないこともあります。明らかに痔瘻であると分からない場合は、保存療法で治療をしつつ3ヶ月ほど様子を見るほうが得策です。
明らかに痔瘻であると判断できる場合や、保存療法で様子を見た結果症状が改善しない場合は、手術を受けることになります。
痔瘻(あな痔)の手術で重要な2つのポイント
痔瘻の手術を受ける前に確認しておきたいポイントは以下の2つになります。
- 患部を正確に把握する
- 肛門括約筋を傷つけない手術を行う
1つ目は患部を正確に把握することです。原発巣と呼ばれる穴が広がってしまっている部分や、穴の入り口である一次口。そして穴の終点である二次口の位置を正確に把握しないと、患部を確実に切除することができません。
患部を完全に切除できなかった場合、痔瘻が再発する可能性があるので、手術前に患部を正確に把握することが重要になります。
2つ目は手術の方法を事前に確認することです。痔瘻は基本的に切除する必要があるので、身体にメスを入れなければなりません。しかし、痔瘻は肛門括約筋と呼ばれる肛門を締める筋肉を貫いている場合があります。肛門括約筋を切除すると肛門が正常に機能しなくなってしまい、便が漏れるなど日常生活で弊害が出てしまうことが多いです。
よって、肛門括約筋を貫いているタイプの痔瘻の場合、いかに肛門括約筋を傷つけないように手術を行うのかが重要になります。しかし、現在日本では肛門括約筋を保護できる手術方法(括約筋保護手術)を実施できる病院が多くありません。
痔瘻を発症して手術が必要になった場合は、手術を受ける病院が括約筋保護手術を実施できるかをしっかりとチェックしましょう。
肛門括約筋を切除した際の弊害
痔瘻の手術で肛門括約筋を切除してしまった場合、手術後しばらくは問題がなくても老化とともに便が漏れやすくなってしまうなどの弊害があります。さらに問題なことに、肛門括約筋は一度切除してしまうと、現在の医療技術では治療することができません。
当院に来院した患者さんの中には、痔瘻の手術で肛門括約筋を切除してしまったことが原因で、20代後半には日常生活で便が漏れるようになってしまった方もいます。その方は空手のとある県の空手のチャンピオンだったのですが、便が漏れるために空手の試合にも出場できませんでした。
なんとか治療をしたいところでしたが、既に肛門括約筋が切除されていたので、当院でも治療ができず、患者さんには悔しい思いをさせてしまいました。上記のような例を増やさないためにも、痔瘻になった際には患部を的確に把握し、肛門括約筋を保護して手術できる病院を探すことをおすすめします。
痔瘻(あな痔)の手術では病院探しが最も重要
痔瘻は痔の中でも100%手術が必要な病気です。しかし、一度痔瘻と診断されても判断が難しいものがあります。明らかに痔瘻と分かる場合でない場合は治療しつつ3ヶ月ほど様子を見て、本当に痔瘻なのか見極めることが重要です。
また、痔瘻の手術を行う際には、医師が患部を正確に把握出来ていることと、括約筋保護手術が受けられるかが重要になります。特に括約筋保護手術を受けられなかった場合、術後に日常生活で問題が起こる可能性があるため、病院を選ぶ時は特に重視しましょう。
平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。