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Dr.Hipsが語る〜痔を知り、楽に治す方法〜

おしりの医学#058「腸活と痔」

今回は院長の平田雅彦の息子であり、平田肛門科医院の副院長でもある平田悠悟より、腸活に関するTipsをお届けします。腸内環境の改善は免疫力アップにつながる上、便を理想の状態に保つことで痔の予防や改善につながるため、ぜひ取り組みたいことの1つです。当記事を参考に腸内環境を整え、健康的な生活を目指しましょう。

腸内にいる細菌の数は人間の細胞よりも多い!

人間の大腸に存在する腸内細菌の数は約100兆個であり、人間を構成する細胞の数よりも多いといわれています。1900年代までは腸内細菌のDNA塩基配列を高速で行う手段がなく、腸内を網羅的に解析することが難しかったため、研究があまり進んでいませんでした。
しかし、2000年代に入ってからは次世代のシーケンサーが開発され、大量かつ高速でDNA延期解析を行うことが可能となりました。結果、長寿の人に多い腸内細菌の種類や、国ごとの腸内フローラの違いなどが分かり始めています。また、同じ人が摂取する食べ物を変えたり、体重が増減することによって、腸内環境がどのように変化していくのかも治験によって次々と判明してきているところです。

腸内で有用な働きをする細菌はビフィズス菌だけではない

腸活と聞いて真っ先に浮かぶのが乳酸菌でしょう。特に有名なのがビフィズス菌です。日本では1950年代から、地中海地域の人々が長寿であることに着目し、彼らが毎日のように食べているヨーグルトに注目しました。
最近でもビフィズス菌は注目を集めており、腸活をしている人にとってはサプリなどで当たり前のように摂取するものとなっています。しかし、腸内環境の改善に有効に作用する細菌はビフィズス菌だけでないことも忘れてはいけません。
例えば、近年は長寿の地域の人の腸内に多いロゼブリア属や、アジアとアフリカの人の腸内多い、プレボレラ属などのように、食物繊維を分解して酢酸やコハク酸を産生する菌が注目を集めています。
今後もそれぞれの菌の関係性や相乗効果などが明らかになっていくことで、より効果的に腸活が可能になるでしょう。

日本人の腸内フローラは世界的に見ても特殊

実は日本人の腸内環境は世界的に見ても特殊なものとなっています。例えば日本人は数少ない海藻を分解できる酵素遺伝子を持っている人種であり、約90パーセントが海藻を分解することが可能です。世界的に見てみると海藻を分解できる人は全体の15%程度であるため、日本人の特異性がよく分かります。
また、世界的には水溶性食物繊維の分解によって生じる水素がメタンの生成に使われることが多いです。しかし、日本人の場合は酢酸の生成に使われることが分かっています。結果、腸内のphが酸性に寄り、腸内環境の改善に効果を発揮するのが特徴です。

ビフィズス菌の割合は世界でもトップ

さらに、日本人は世界的に見てもビフィズス菌の腸内フローラの割合が多いことが分かっています。主要12ヶ国の中で比較しても、平均7.6%と3位のフランスや2位のオーストリアと大きく差をつけて多いです。
ビフィズス菌は食物繊維を分解して酢酸と乳酸菌を産生します。日本人の腸内が水溶性食物繊維の分解でメタンではなく酢酸を生成しやすい環境なのは、ビフィズス菌の割合の多さも起因しているといえるでしょう。

腸内環境と食事の関係性

腸内フローラの構成が地域によって異なるのには、地域ごとの食文化の違いが密接に関係しています。先に述べた通り、日本人の腸内には海藻を分解する酵素が存在します。しかし、他の国の人は海藻を分解することができないことが多いので、海藻を食べることはほとんどありません。
上記のような腸内環境の違いと食べ物の関係を、明確に表している例があるので紹介します。以前フランス料理の世界一を決める、ボキューズ・ドール世界大会に日本人のシェフが参加するドキュメンタリーを見ました。
当該のドキュメンタリーでは、ボキューズ・ドール大会で日本人のシェフがなかなか好成績を治められていないということで、フランス人のシェフにコーチを依頼します。フランス人シェフのコーチはフランス料理の大会ではあるものの、日本人らしさが必要と考えており、彼の考えに応じた日本人シェフは日本特有の食材である海苔を使用しようと考えました。
しかし、コーチから「審査員はフランス人なので海苔を使ったら審査員がお腹を壊してしまう」と忠告され海苔の使用を諦めてしまいます。地域特有の食材が腸内環境の違いによって使えないという事実をみて、世界一の料理とは何なのか、考えさせられる内容となっていましたね。
ただ、近年は細胞壁が壊れた海藻類であれば、海藻を分解する酵素がなくても食べられることが分かっており、フランスでも海苔が見直されているようです。

腸内細菌の数は年齢と共に減っていく

腸内細菌の数が年齢を重ねるごとに減っていくことも知っておきたい情報です。生まれて間もないころは、腸内細菌の90%がビフィズス菌なのですが、年齢を経るごとに他の細菌が増え、ビフィズス菌の割合が減っていくほか、腸内細菌自体の数も減っていきます。
つまり、年齢を重ねるにつれ、身体に好影響をもたらす腸内細菌を増やすような行動をとることが必要になるということです。実はビフィズスを増やしたいのであれば、ビフィズス菌自体を摂取するよりも、餌となる食物繊維を積極的に摂取するほうが有効であるといわれることもあります。
腸内環境を整えたいのであれば、ビフィズス菌を直接摂取することはもちろん、食生活を見直して食物繊維やオリゴ糖といったビフィズス菌の餌になる食材を摂るようにしましょう。加えて、軽い運動をすることや、肉類を控えることでも腸内環境を整えることが可能です。

腸活が痔に及ぼす好影響

腸活は痔に対しても好影響をもたらします。例えば内核痔(いぼ痔)の原因の1つは排便時のいきみです。また裂肛(切れ痔)は便が硬いことが原因となって発症することがあります。
腸内環境を整えるために食物繊維を摂ることで、便が適度に軟らかい理想の状態にすることが可能です。食物繊維を餌に腸内細菌が増えることで免疫力も上がるので、炎症を抑えることにもつながり、結果的に痔を改善できます。
内痔核や裂肛の治療では手術をする必要はありません。当院でも食物繊維を摂る重要性をといており、食生活をはじめとした生活習慣の改善と薬の治療で、手術せずに治療することを目指しています。

1日に摂る食物繊維の目安は20g

1日に摂取すべき食物繊維の目安は20gです。しかし、現代人の平均的な食物繊維摂取量は13g程度と、摂取すべき量を下回っています。つまり、平均的に食物繊維を摂っている人でも、目安をクリアするためには1.5倍の食物繊維を摂取しなければいけません。
特に内痔核や裂肛の症状がある人の場合は、意識的に食物繊維を摂る必要があります。食物繊維が多く含まれている食材として代表的なのは海藻です。その他、納豆やオクラ、山芋といった粘り気のある食材を摂ることも有効になります。
上記のような食材の粘り気は、水溶性食物繊維とタンパク質が結合したものです。粘り気によって便の排出も円滑になりますので、積極的に摂取することをおすすめします。

腸内フローラは痔や免疫力に密接に関わっている

人間に摂って有用な細菌の腸内フローラを増やし、腸内環境を整えることで、痔の改善につながるだけでなく、免疫力を上げることが可能です。結果的に、近年社会を悩ませているコロナにかかりにくくなるなど、様々な効能を得ることができます。
腸内フローラについてはまだまだ分かっていないことも多いですが、免疫に良い影響を及ぼすことは間違いありません。日常的に腸活を実践することで、健康的な身体を目指しましょう。
当記事を読んだ方の中には、自分の腸内フローラを調べてみたいと思った方もいらっしゃると思います。近年は自宅で腸内細菌を検査できるキットも販売されているので、興味のある方はぜひ当院にお問い合わせください。

平田雅彦プロフィール(平田肛門科医院 院長)
1953年 東京都生まれ。
筑波大学医学専門学群卒業。慶應義塾大学医学部外科学教室に入局し、一般外科を研修。
社会保険中央総合病院大腸肛門病センターに入り、大腸肛門病の専門医としての豊富な臨床経験を積む。
現在、平田肛門科医院の3代目院長。