痔瘻[じろう](あな痔)
痔瘻の手術
以前は、痔瘻は1~2ヵ月入院して大きく切り取る手術を行っていた医療機関もありました。括約筋温存手術を行えば、技術的にはむずかしいものの、傷は小さくてすみますので、入院はⅡ型痔瘻で10日間、Ⅲ型痔瘻でも2週間ほどですみます。
肛門科を受診していきなり手術ということはありませんので、早めに受診して、確実な診断を受け、医師の話をよく聞いて手術にのぞみましょう。
原発口、原発巣、二次口を確実に除去することが重要
痔瘻は放置すると、肛門がんになることがあるので、すべての患者さんに手術を行います。それだけに慎重に検査をして診断しますので、診察したその日にすぐ手術などということはありません。診断がつかない場合は、定期的に外来受診して、経過観察をします。「病院に行くと、すぐに手術される」「手術は痛くてこわい」など、根拠のないうわさにまどわされず、早期に受診して、的確な治療を受けるようにしてください。
痔瘻の手術は、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型、それぞれタイプに合った方法で行われます。いずれの場合も、原発口、原発巣、二次口のすべてを取り除くことが重要です。
Ⅰ型とⅡ型の痔瘻の手術
従来はタイプに関係なく、原発口、原発巣、痔瘻の管をすべて切り取る「瘻管切開開放術式」が行われていました。
Ⅰ型、Ⅱ型の痔瘻でも、瘻管が肛門の背後にあるものは、肛門括約筋をつらぬいて走っていないので、瘻管切開開放術式を行ってもかまいません。
しかし、Ⅱ型痔瘻で、瘻管が側方や前方を走っている場合、瘻管切開開放術式で行うと、患部といっしょに肛門括約筋も切ってしまうことになります。
その結果、肛門が変形したり、締まりが悪くなったりするなど、望ましくない結果を生んでしまうことがありました。そこで最近では、肛門括約筋を残して痔瘻を取る「肛門括約筋温存手術」が考案されました。この手術では、まず皮膚にある、うみの出口から外肛門括約筋までの部分で痔瘻の管を取り除きます。
次に、原発口から原発巣までのうみの管をくりぬいて切開します。ひと言でいうと、痔瘻の管の入り口と出口を取り除く手術ということです。
そうすれば、肛門括約筋の中を通っている瘻管は残り、原発口と原発巣がなくなると、残った瘻管は自然にかれて消えてしまいます。この方法ならば、皮膚と肛門括約筋を傷つけることはないので、後遺症の心配はありません。
肛門括約筋温存手術であれば、ほとんどの場合10日の入院で行えます。
Ⅲ型とⅣ型の痔瘻の手術
Ⅲ型、Ⅳ型の痔瘻は、瘻管が肛門括約筋のより深い部分までつらぬいているので、痔の手術の中でももっともむずかしく、注意を必要とするものです。
Ⅲ型痔瘻は、瘻管が非常に深い部分を走っています。そのため、瘻管切開開放術式で行うと、肛門括約筋が大きく傷ついてしまうので、肛門の締まりが悪くなってしまいます。
昔はこのような後遺症が残っても、痔瘻が治るのだからしかたがないという医師も多かったのですが、患者さんの術後の生活を最優先に考える現代医療では、それは許されないことです。
そこで、Ⅲ型痔瘻には肛門括約筋温存手術を行います。手術は肛門側から掘り進めるように行い、原発口、原発巣を確実に取り除きます。患部を除去したあとは、ポケットのような穴が残るので、同じ組織ごとにていねいに縫合し、残ったポケットを埋めていきます。Ⅲ型痔瘻では、Ⅰ型、Ⅱ型にくらべると、ポケットが大きいために、お尻などから持ってきた筋肉を充填して縫合します(筋肉充填法)。
また、縫合には6週間でとけて体内に吸収される、無害で特殊な糸を使用するため、傷は残りません。少々手間のかかる手術ですが、この方法なら、術後に肛門の締まりが悪くなるなどの問題はほとんど起きないので、患者さんにとっても安心できる手術だと自負しています。
なお、平田病院では、Ⅲ型痔瘻の肛門括約筋温存手術も2週間の入院で行っています。
また、Ⅳ型痔瘻は非常に珍しいタイプの痔瘻ですが、手術はⅢ型痔瘻で行う肛門括約筋温存手術の拡大型手術となります。
イギリスを中心にⅡ型に行われているシートン法
肛門括約筋の温存手術はむずかしく、手術がうまくいっても、再発することがあります。また、症例によっては、手術ができないこともあります。そのため、イギリスを中心に、痔瘻の原発口と二次口の間に糸をかけて瘻管を数週間から数ヵ月かけて徐々に切っていく方法が開発されました。
これをシートン法といい、最終的には肛門括約筋は切られてしまうのですが、時間をかけて徐々に切っていくため、切れた側から線維化が起こり、括約筋のダメージは少ないといわれます。
肛門括約筋温存手術より簡単なため、欧米ではⅡ型を中心に好んで行われています。平田病院では、肛門括約筋温存手術を試みて、原発口側の創が大きく、再発の危険性がある場合に限り、行っています。
なお、糸の材質には絹糸、ゴム、アーユルヴェーダの流れをくむクーシャスートラという特殊な防腐剤をしみ込ませた糸などがあります。
早めに受診して確実な治療を
いかがでしょうか。絶対に手術が必要な痔瘻ですが、肛門括約筋温存手術を行えば、肛門括約筋を残したまま、痔瘻を取ることができます。その際の入院日数も、ほとんどの場合は10日ですませることができます。
痔瘻は放置しておくと肛門がんになることもありますが、早めに処置すれば、何らかこわいことはありません。しかも、入院日数も少なくてすむのです。医師の話をよく聞いて、後悔のないよう、納得のいく治療を受けてください。