痔の原因
肛門の構造としくみ
肛門は、歯状線を境に、自律神経と体性神経という違った神経に支配されているので、痔が発生する場所によって痛みなどの症状が異なります。
肛門は複雑でデリケートな器官
痔という病気を理解するには、肛門の構造を知っておくことが大切です。肛門という漢字の「肛」はお尻の「あな」を、「門」は「出入り口」を意味し、体内で消化・吸収された食物の残りカスを便として排泄し、便やガスの排出を調整する器官が肛門です。
消化器官の食道、胃、十二指腸、小腸につづく大腸は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、さらにS状結腸と直腸に分かれ、肛門とつながっています。排便と関係しているのは、S状結腸から下の部分で、結腸を通って水分を吸収された便が直腸へおりていき、直腸の壁が便で広げられると、自律神経の反射作用で便意が起こります。
肛門の長さは約3cmで、正確には肛門管といい、母親の胎内で約8~9週目になった胎児のときに、内胚葉性の原始直腸が、外胚葉性の原始肛門と合わさってできます。その接合部は歯のようにギザギザしていることから歯状線と呼ばれ、肛門のふちより約1.5cm奥にあります。
この歯状線を境にして、奥は大腸と同じく自律神経によって支配されているので、ほとんど痛みを感じません。しかし、歯状線よりお尻の皮膚に近い部分は、皮膚と同じ体性神経(脊髄神経)の支配下にあり、敏感に痛みを感じます。このように肛門が2つの違った神経系に支配されていることが、痔が発生する部位によって痛みなどの症状が異なる原因となっているのです。
また、歯状線の周囲には肛門腺窩というポケット(くぼみ)があり、そのくぼみには肛門線という分泌腺が開いています。この肛門腺に便がたまって細菌に感染し化膿すると、痔瘻の原因となります。
肛門を取り囲んでいる2つの筋肉
ふだん私たちが意識していなくても、肛門から便が漏れ出ることはありません。それは、肛門の周囲を内肛門括約筋と外肛門括約筋という2つの筋肉が取り囲んで、肛門を閉じているためで、便をするとき以外は、肛門から便が漏れないしくみになっているからです。
粘膜の近くにある内肛門括約筋は、不随意筋といって、自律神経によって支配されている肛門を一定の力で締めつけており、寝ていて意識がないときでも便は漏れません。
一方、内肛門括約筋の外側にある外肛門括約筋は随意筋といって脊髄神経で支配されている筋肉なので、意識的に締めたりゆるめたりすることができます。
電車の中で急にトイレに行きたくなったり、人前でおならが出そうになったときにがまんできるのは、外肛門括約筋のおかげなのです。