痔の種類と症状

痔核[じかく](いぼ痔)

手術が必要な痔は少ない①

以前は、「悪いところをすべてメスで取り除く」というのが外科手術の基本的な考え方でした。しかし、医学が進歩し、本来の機能をできるだけ残して、最小限の手術をする保存療法が主流になりました。

患者が肛門科の受診をためらう理由は?

平田病院に来院された1000人の患者さんのアンケート調査によれば、患者さんが医療機関へなかなか受診しに行かない理由は、次の6つです。

①医者に行くのが恥ずかしい。
②医者に行くと、すぐ手術をされる。
③痔の手術は死ぬほど痛いそうだ。
④痔の手術は、何週間も入院しなくてはならない。
⑤痔は、手術をしても再発する。
⑥痔で死ぬ人はいないから、医者に行くのはめんどうだ。

つまり、医者の診察を受けない理由の6つのうち、4つまでが痔の手術に対する恐怖心と不信感でした。

しかし、それは事実ではありません。

痔の治療法は、最近では劇的といっていいほどに変わり、「手術をしない、痛くない、恥ずかしくない」という方向に向かっています。

たしかに以前は、「痔は、手術で悪いところを取ってしまえばよい」という外科医が多かったのは事実です。また、痔の手術法もそういう方法が主流でした。さきほどの「痔は、すぐ手術されて、痛い」という痔の治療に対する一般のかたのまちがったイメージは、そのころの痔の手術の体験からきているのです。

しかし、最近では新しいレーザー療法も開発され、また痔の発生のメカニズムがよくわかってきたことから、保存療法といって、なるべく手術をしないで治すという治療法が中心になっています。

ここでは、まず、痔の手術は、痔瘻を除いてほとんど必要ないことを説明し、後半で、不幸にして痔の手術が必要になった場合に、どのような手術になるかを紹介します。

欧米では、痔の手術をほとんど行わない

ある報告によれば、欧米諸国の痔核の手術率は、ドイツ7%、イギリス5.5%、アメリカ4%となっていて、ほとんど痔核の手術は行っていないといってもよい数字です。

また、平田病院では、内痔核12%、裂肛と肛門狭窄10.5%、外痔核1.2%で、これもこの数年でどんどん減ってきている数字です。ただし、痔瘻だけは100%手術します。

これらのデータから、痔の手術はほとんど行われないようになり、生活指導(セルフケア)と保存療法が痔の治療の主流になっていることがわかります。

なお、当院で手術をした人の病名の割合は、内痔核48%、痔瘻29%、裂肛・肛門狭窄9%、その他14%となっています。内痔核の割合が高いのは、患者さんの数が多いからです。

痔で、緊急な手術はほとんどない

内臓の病気と違って、痔では緊急に行われる手術は限られています。

緊急手術をしなければならない肛門の急患は、肛門周囲膿腸で切開が必要なケース、内痔核の急性炎症期(嵌頓痔核など)でどうしても出血が止まらないケースです。通常の嵌頓痔核では、症状の経過を見ながら手術の時期を決めます。

平田病院では、嵌頓痔核で緊急手術したケースは、2年に1回あるかないかの数字です。

したがって、はじめて受診したときに、医師から「すぐ、手術しましょう」といわれたなら、なぜ、すぐ手術をしなければならないのかを、医師に詳しく説明してもらいましょう。

生活指導と投薬で手術を決める

緊急に手術を必要としない痔は、手術をする時期を判断するために、痔の症状を1ヵ月ごとに評価しながら、3ヵ月間の生活指導と投薬を行って経過を見てから、手術をするかどうかを決めます。

もし、手術をするようになっても、その間にはれが引けば手術する部位が小さくなって患者さんの負担も少なくなり、術後の経過もよくなります。

また、この3ヵ月の間に、手術をしなくてもよくなるケースが出てくることもあります。

なぜ、自分の痔に手術が必要なのか、医師にたずねる

医師から痔の手術を受けるようにいわれたときは、必ず、なぜ自分の痔に手術が必要なのか、本当に手術が必要なのか、ということを医師にたずねてください。

というのも、平田病院に見える患者さんの中に、「ほかの病院で手術を受けたが、病名や治療方針について、医師からほとんど説明がなかった」というケースが多いからです。

これは、手術を行った医師、病院側の不注意によるものですが、自分の病状や、受ける治療に無関心な患者さんにも問題はあると思います。

痔の手術が必要といわれたときには、医師に次の質問をして、理由を納得できるまでくわしく聞くようにしてください。

①なぜ、自分の痔に手術が必要なのですか?
②手術しないと、どのようなまずいことになるのですか?
③自分と同じ症状の痔の人はこの病院ではどれくらい手術をしているのですか?
④手術をすると、何日間で完治するのですか?
⑤手術をすると、自分の病状は解消しますか?

最近の医療では、インフォームド・コンセント(説明と同意)という考えにもとづいて治療を行うようになっています。これは、治療を始める前に、医師が患者さんに病状や治療法をわかりやすく説明し、また患者さんはわからないことを質問して、医師の説明に納得し、同意してから治療を受けるというものです。

よほどのことがない限り、その日のうちに手術ということはありません。まず、痔の痛みやはれなどの症状を消炎薬などで抑え、患部が落ち着いてから、患者さんの都合のよい日に手術をします。

手術日の数日前に突然、電話をかけてきて、「予定が変わったので、明日入院してください」などということが一部の大病院にはまだあるそうです。

しかし、このやり方は病院の都合だけを優先し、仕事や家事をしている患者さんの都合をまったく無視しています。今後は、このような病院の対応の仕方はなくなっていくと思います。

どのような手術法か医師に詳しく聞いてみる

次に、どのような手術が行われるのか、医師に質問しましょう。

平田病院では、手術の前に次のように手術について説明しています。
①手術は、肛門括約筋を完全に傷をつけない方法で行います。
②痔瘻の手術後の再発率は、平田病院では1.3%で、このうちの2人はのちにクローン病が見つかった人でした。
③手術を行う医師は、日本大腸肛門病学会の肛門領域の指導医2人がチームを組んで行います。
④平田病院では、集中力を維持するため、2人1組の医療チームが1日に4人の患者さんの手術しか行いません。

これらの手術についての説明を参考にして、手術が必要といわれたときには質問をしてください。

これまで、診察を受けるときに「お医者さんにみていただく」という受け身の診療にならされてきた患者さんですと、「こんなことをお医者さんに聞いても失礼にならないのか」と思うかもしれませんが、現代の医療では、治療を受ける患者さんの権利として、これくらいのことを質問するのは当然ということを忘れないでください。