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痔のセルフケア

便秘下痢対策①ビフィズス菌を増やす

腸内に悪玉菌がふえると、便秘や下痢を起こしやすくなります。腸内の健康を保つには、善玉菌のビフィズス菌をふやす乳糖やオリゴ糖、食物繊維が豊富な食品をたくさんとることが必要です。

腸内細菌には、善玉菌と悪玉菌がある

腸内細菌とは人間の小腸と大腸にすんでいる細菌のことで、約100種類、数にして100兆個というおびただしい数の細菌が人間の腸の中で共生しています。人間の全細胞の数が約60兆個といわれますので、その2倍ほどの腸内細菌がおなかの中にいるわけです。

その腸内細菌には、人間の健康のためによい働きをする善玉菌と、健康に悪さをする悪玉菌があります。

善玉菌は、人体に有用なビタミンやたんぱく質をつくり出したり、腸の働きをととのえたりします。善玉菌の代表選手がビフィズス菌です。

悪玉菌は、胆汁を発がん物質である二次胆汁酸に変えたり、アミノ酸と尿素からアンモニアをつくって肝臓の働きを弱くしたりします。つまり、数々の発がん物質や老化物質を生み出して、腸内を毒ガス工場にしてしまうのです。

悪玉菌の代表にウェルシュ菌やブドウ球菌があります。そして、中間的存在として、ときには善玉の働きをし、ときには悪玉になる大腸菌があります。

赤ちゃんのおなかはビフィズス菌95%!!

私たちの中で、便秘も下痢もしにく、腸がいちばん丈夫な人はどんな人でしょうか。それは、おっぱいを飲んでいる赤ちゃんです。

なぜ、赤ちゃんの腸は丈夫なのでしょうか。それは、おっぱいを飲んでいる赤ちゃんの腸内細菌のほとんどがビフィズス菌だからです。

生まれたばかりの赤ちゃんの腸はほとんど無菌に近い状態ですが、生後2~3日たつとビフィズス菌が自然に発生してどんどんふえていきます。そして1週間を過ぎると、赤ちゃんの腸内細菌の約95%は善玉のビフィズス菌になっています。

なぜ、赤ちゃんの腸の中でビフィズス菌が急激にふえるのかは、まだ解明されていませんが、母乳や乳児用粉ミルクに含まれる乳糖がビフィズス菌をふやしているのではないかといわれています。その証拠に、離乳食が始まるとビフィズス菌の割合は低下します。

年をとるにつれて善玉菌のビフィズス菌が減り、悪玉の大腸菌やウェルシュ菌がふえてきます。このことは、ある老人ホームでお年寄りの腸内細菌を調べたところ、善玉菌のビフィズス菌は全体5%しかなかったという数字からもうかがえます。そして、5%しかビフィズス菌がいないお年寄りの大部分は便秘に悩まされていました。

それでは、がんこな便秘に対して、腸内細菌はどのような作用をするのでしょうか。57人の寝たきり老人の排便の状態を調べた調査があります(田中・下坂:1982年)。57人中、毎日、排便がある人は6人(10.5%)で、4~7日に1回の排便が18人(31.6%)、22人(38.6%)が便秘薬を常用していました。この人たちにビフィズス菌入りヨーグルトを毎日100ml飲ませたところ、10日以内にかなりの人の排便回数がふえました。欧米にも、便秘症患者にヨーグルトやビフィズス菌入りの粉ミルクを飲ませると、がんこな便秘が改善したという報告がたくさんあります。

それでは、下痢に対して、ビフィズス菌はどのように働くのでしょうか。

食中毒の原因になるサルモネラ菌を与えたネズミにヨーグルトを食べさせると、サルモネラ腸炎の発症は防げなかったものの、死亡率は明らかに低下しました。また、カンピロバクター腸炎の患者さんにビフィズス菌製剤をあたえると、下痢がつづく日数に明らかな減少が見られます。

難治性下痢症の小児にビフィズス菌製剤を投与すると、治療に要した日数が26日から7日に短縮したという報告もあります(慶応義塾大学小児科)。

ビフィズス菌がふえると、老化も発がんも抑えられる

私たちの腸内には、たくさんの細菌がすんでいて、一生つきあわなければなりません。とはいえ、善玉菌をふやす食生活を心がけると、便秘やアレルギー症状、生活習慣などを防ぐことができことが分かってきました。

ネズミにあたえているエサにヨーグルトを14%添加すると、ネズミの平均寿命が8%延び、がんの発生と腎臓の障害による死因は明らかに減少していました(荒井ら:1980年)。また、ヨーグルト入りのエサを食べていたネズミの腸内フローラ(腸内細菌叢)は、普通のエサを食べていたネズミのそれよりもビフィズス菌がおよそ10倍も多かったのです。

生まれつき肝臓がんになりやすい実験用のネズミを飼育すると、その75%が肝臓がんになります。ところが、ビフィズス菌製剤を加えたエサをあたえていると肝臓がんになる率が46%まで低下します。

人間では、ビフィズス菌製剤を投与すると、膀胱がんの再発が30%低下するという報告があります(東京大学泌尿器科・筑波大学泌尿器科)。

これらの研究結果は、発がん物質や老化物質の多くが腸内細菌の悪玉菌によってつくられるという推測を裏付けるものです。

ビフィズス菌が少ないと、悪玉菌が圧倒的に優勢になるので、腸内では食べ物のカスが腐敗し、インドールやスカトールなどのくさいガスが発生したり、また、肉や魚の動物性たんぱく質が腐敗してできるニトロン化合物などの発がん物質や、有毒なアンモニアなどが発生します。

こうした研究結果を見ると、中高年になっても腸内の善玉ビフィズス菌をふやしていれば、がんになる確率は減り、老化も遅らせ、健康を維持することができるといえます。

アンチバイオティクスからプロバイオティクスの時代へ

20世紀には、細菌は悪いものとして抗生物質などを開発し、徹底的に退治しようとしました。この考え方をアンチバイオティクスと呼んでいます。しかし、抗生物質を安易に使用していると、今度は抗生物質が効かない耐性菌が発生し、細菌の退治という考え方に行きづまりが見えてきました。

その反省から、プロバイオティクス、つまり菌と共生しようという考え方が生まれました。よい菌を味方につけ、悪い菌から体を守ってもらおうというわけです。たとえば、腸内にビフィズス菌がふえると、少量の赤痢菌や病原性大腸菌O-157が腸内に入っても、ビフィズス菌がそれらの病原菌を退治してくれます。

ビフィズス菌をふやすもの

さまざまな害から私たちを守ってくれるビフィズス菌をふやす方法は、4つあります。

乳糖を多くとる

赤ちゃんは、母乳に含まれる乳糖でビフィズス菌を腸内細菌の95%までふやします。ビフィズス菌は乳糖を分解して酢酸をつくり、腸内を酸性にします。悪玉菌のウェルシュ菌は、酸性の腸内では生育できないので、相対的にどんどんビフィズス菌がふえるのです。

乳糖は、ヨーグルトなどの乳製品に多く含まれています。また、ヨーグルトには、ビフィズス菌をふやす因子であるラクチュロースやラクトフェリン含まれているので、まさに腸内の健康にはもってこいの乳製品です。

オリゴ糖を多くとる

オリゴ糖は、ごぼうやたまねぎに多く含まれる糖質です。オリゴ糖は、人間の消化酵素では分解されないので、体内に入っても吸収されずに大腸まで達します。大腸に届いたオリゴ糖は、悪玉菌には利用されず、ビフィズス菌がふえるのです。1日8gのオリゴ糖をお年寄りにとってもらったところ、腸内のビフィズス菌が10倍にふえて、便通がスムーズになったという報告もあります。砂糖大根(ビート)からとった液体のオリゴ糖は市販されており、毎日の料理にも気軽に利用できます。

食物繊維を多くとる

健康な成人に、1日10gの食物繊維(ポリデキストロース)をとってもらったところ、排便量は30%増加し、悪玉菌のウェルシュ菌はいちじるしく減りました。また、食物繊維であるコーンファイバー18gを加えた食事を健康な成人にとってもらったところ、ビフィズス菌が明らかに増加しました。

このように食物繊維にはビフィズス菌をふやし、腸内環境をととのえる働きがあります。

生きたビフィズス菌製剤を飲む

ビフィズス菌は、絶対嫌気性菌という細菌のため、空気や光にふれると死んでしまいます。以前は、暗闇の真空の中でしか生きられないビフィズス菌を生きたまま取り出すこと無理だと思われていました。しかし、最近では、フリーズドライとアルミラミネート技術の進歩で、「生きたビフィズス菌」の製剤法が実用化されています。この製剤を服用することも、ビフィズス菌をふやす一つ方法です。

ビフィズス菌を減らすもの

逆に、ビフィズス菌を減らしてしまう危険因子もあります。

ストレス

NASA(アメリカ航空宇宙局)の研究によると、宇宙飛行士にストレスをあたえると、腸内のビフィズス菌がいちじるしく減少し、下痢や便秘を引き起こすといいます。

現代社会では、私たち一般人も宇宙飛行士に劣らないストレスに身をさらしているので、ストレスがビフィズス菌を減少させ、排便の異常を起こすという研究の結果は重要です。

経口の抗生物質

病気になると、炎症を抑えるために抗生物質を服用することがあります。抗生物質は病原菌を殺しますが、腸内のビフィズス菌も殺してしまいます。抗生物質の服用で下痢や便秘になる人がいますが、これは腸内のビフィズス菌が減少したためです。

食品に含まれる合成保存料

加工食品には、腐らないように、殺菌のための合成保存料が使われています。これらの食品を食べると合成保存料もいっしょに体内に入り、ビフィズス菌を殺してしまいます。現代社会では、合成保存料がまったく含まれていない食品だけを食べることは不可能ですが、できるだけ合成保存料が少ない食品を選ぶようにしたいものです。

高脂肪・高たんぱく・低食物繊維食

肉食が中心の高脂肪・高たんぱく・低食物繊維の食事を長くつづけていると、腸内がアルカリ性に傾いて悪玉のウェルシュ菌がふえ、善玉のビフィズス菌が減ります。そのために便秘になって、ますます腸内がアルカリ性になる、という悪循環をもらたします。

もう一度、和食を見直して、野菜や海藻、豆類、いも類などをたっぷりと使った低脂肪・低たんぱく・高食物繊維のメニューを積極的にとり入れるようにしましょう。

【COLUMN】
メチニコフ博士のヨーグルト研究

いまから100年以上も昔、ロシアのイリヤ・メチニコフ博士は「ブルガリア地方の人々が長寿で、がんが少ないのは、彼らが常食しているヨーグルトの乳酸菌が腸内でふえるからだ」と主張しました。

残念ながら、乳酸菌は人間の腸内では生きられないことがわかり、この説は否定されました。

しかしその後、顕微鏡が進歩して、その当時は無理だった絶対嫌気性菌の観察ができるようになりました。

その結果、ヨーグルトを多く食べると、乳酸菌ではなくビフィズス菌が人間の腸内にふえ、発がんを抑えたりすることが明らかになったのです。

乳酸菌とビフィズス菌のとり違えはあったものの、メチニコフ博士は免疫に関する貢献を認められて1908年にノーベル賞を受賞しました。

博士の免疫理論の偉大さは、いまも高く評価されています。